地球環境への配慮から、近年の住宅に設置されるトイレは劇的な進化を遂げました。かつては一度の洗浄に十三リットル以上の水を使っていたものが、現在ではわずか三・八リットルから四・八リットル程度で済む製品が主流となっています。しかし、この素晴らしい節水技術が、バリウム検査後の家庭においては予期せぬリスク要因となっている事実は、もっと広く知られるべきでしょう。節水型トイレの仕組みは、少ない水に強力な旋回流やサイホン現象を組み合わせることで汚れを運び去ります。しかし、この設計はあくまで「通常の排泄物」を対象としたものです。硫酸バリウムのように、比重が水の四倍以上もある特殊な鉱物を運ぶことは、想定の範囲外である場合が多いのです。少ない水量では、重たいバリウムを排水管の奥まで押し切ることができず、便器のすぐ裏側にあるトラップ部分に留まらせてしまいます。一度そこにバリウムが沈殿すると、次に流れる少量の水は、バリウムの層の上を滑るように流れてしまい、肝心の沈殿物を動かすことができません。これが繰り返されることで、バリウムは徐々に水分を失って硬化し、ついには配管を完全に塞ぐ「バリウム石」へと成長します。特にタンクレストイレのような、水道直圧を利用するタイプは、一瞬の勢いは強いものの、継続的に大量の水を流し続ける能力には限界があります。このため、最新のトイレほどバリウム詰まりに対して脆弱であるという、皮肉な逆転現象が起きているのです。メーカー側もこの問題を認識しており、一部の取扱説明書には、特殊なものを流した際の注意書きがありますが、それを熟読しているユーザーは稀です。私たちができる防衛策は、自分の家のトイレが最新であればあるほど、バリウムを流す際には慎重になることです。バケツに水を汲み、高い位置から勢いよく注ぎ入れるといった「手動による加圧」が必要になることもあります。テクノロジーが進歩しても、物理的な「重さ」という課題は消えません。節水の美徳が、詰まりという実害に変わらないよう、設備の特性を正しく理解し、バリウム排出時だけは例外的な対応をとることが、賢い住まい手の条件と言えるでしょう。
節水型トイレの普及が招いたバリウム詰まりの新たなリスク