年に一度の健康診断を終え、医師から渡された下剤を手に、私はどこか晴れやかな気分でいた。苦手なバリウム検査を乗り切り、あとはこれを飲んで「白いお務め」を果たすだけだ。その夜、指示通りに下剤を服用し、何度かトイレに通った後、私はすっかり安心しきって眠りについた。本当の悪夢が、翌朝に待ち構えているとも知らずに。朝食後、腹部に確かな便意を感じてトイレに向かった。便器の中に現れたのは、噂に違わぬ真っ白な物体。しかし、私の想像を遥かに超えていたのは、その硬度と重量感だった。レバーをひねると、水は白い塊の周りを虚しく流れるだけで、それは微動だにしない。まるで、便器の底に鎮座する白い鎮石のようだった。焦りを感じた私は、もう一度、さらにもう一度と、執拗にレバーを操作した。すると、ゴボゴボという不吉な音と共に、便器の水位がゆっくりと上がり始めたのだ。頭が真っ白になった。便器から水が溢れ出すという、家庭内トラブルの最悪のシナリオが頭をよぎる。私は慌てて、物置からラバーカップ、通称「スッポン」を取り出し、必死で格闘を始めた。しかし、手応えは全くない。ゴムカップが押し返す圧力は、まるでコンクリートの塊に挑んでいるかのようで、絶望感だけが募っていく。インターネットで調べた「お湯を流す」「洗剤を入れる」といった対処法も、すべてが徒労に終わった。その間にも、家族からは「まだ治らないのか」という無言のプレッシャーがかかる。結局、自力での解決を諦めた私は、屈辱感に苛まれながら、深夜にもかかわらず水道修理業者に緊急出動を依頼するしかなかった。到着した作業員の方は、便器の中を一瞥すると、「あー、バリウムですね。これは厄介ですよ」と静かに言った。特殊なワイヤー機器を使った30分ほどの作業の末、我が家のトイレはようやく平穏を取り戻したが、私の手元には、深夜料金を含んだ高額な請求書と、家族からの冷たい視線、そして二度とバリウム検査は受けたくないという固い決意だけが残った。あの日の経験は、検査後の水分補給と下剤服用の重要性を、骨身に染みて教えてくれる、苦い教訓となった。