キッチンのボコボコ音、その原因は「油」と「石鹸」の共犯関係
キッチンの排水口から聞こえるボコボコ音の根本原因をたどると、その多くは「油」と「石鹸」という、二つの物質が引き起こす化学反応に行き着きます。日々の調理や洗い物で、私たちは意識せずとも、この二つの物質を排水口に流し込んでいます。そして、それらが排水管の中で出会うことで、詰まりの元凶となる厄介な物質「石鹸カス(金属石鹸)」を生成してしまうのです。まず、調理に使った油や、肉料理の脂、マヨネーズやドレッシングに含まれる油分などが、排水管の内壁に付着します。冷たい排水管の中で、これらの油はすぐに冷えて固まり、粘着性のある層を形成します。これが詰まりの第一段階です。次に、私たちが食器洗いに使う台所用洗剤。これには、油汚れを落とすための界面活性剤という成分が含まれていますが、同時に水道水に含まれるカルシウムやマグネシウムといった金属イオンと反応しやすい性質も持っています。油汚れが付着した排水管の壁に、洗剤を含んだ水が流れると、この化学反応が起こります。油と洗剤、そして水道水のミネラル分が結合し、水に溶けない、白くて硬い石鹸カス(金属石鹸)が生成されるのです。これは、お風呂場の壁や鏡に付く、あのザラザラとした汚れと同じものです。この石鹸カスが、油の層の上にさらに蓄積し、そこへ野菜くずや食べ物のカスが絡みつくことで、排水管はセメントのように硬い、強固な閉塞物で少しずつ覆われていきます。水の通り道が狭くなることで、空気の逃げ場がなくなり、「ボコボコ」という音が発生するのです。この音は、見えない排水管の中で、油と石鹸による静かな化学兵器が着々と製造されていることを知らせるサインなのです。