手を洗っている最中、指から滑り落ちた指輪が吸い込まれるように排水口へ消えていく。洗面台で起こるトラブルの中でも、こうした固形物の落下は、詰まりによる不便さに加え、大切なものを失うかもしれないという精神的なダメージが大きく、最もパニックに陥りやすいケースかもしれません。しかし、こんな絶望的な状況でも、決して諦めてはいけません。正しい初動を知っているだけで、あなたの宝物は無事に戻ってくる可能性が格段に高まるのです。 まず、絶対にやってはいけないのが、慌てて水を大量に流すことです。「流れていってしまえ」と願う気持ちは分かりますが、これは固形物をさらに奥の排水管へと押し流し、救出をより困難にしてしまう最悪の行動です。また、針金や細い棒で排水口の中を探るのも厳禁です。これも異物を奥に押し込む原因になるだけでなく、配管の内部を傷つけて水漏れという二次災害を引き起こす危険性があります。 では、どうすれば良いのでしょうか。自分でできる最も有効な救出作戦は、洗面台の下にある「排水トラップ」の分解です。まず、トラップの真下にバケツを置き、配管内に溜まっている水を受け止める準備をします。次に、配管のU字やS字になっている部分の接続ナットを、手でゆっくりと反時計回りに回して緩めます。固い場合は、レンチなどの工具を使いますが、力を入れすぎないように注意してください。ナットが外れると、トラップ部分を取り外すことができます。 多くの場合、落下した指輪やピアスのキャッチ、コンタクトレンズといった小さな固形物は、このトラップのカーブ部分に水と共に溜まっています。バケツに溜まった水の中に、光るものがないか探してみてください。もし、ここで見つかれば救出作戦は成功です。清掃後、逆の手順でトラップを元に戻し、水を流して水漏れがないか確認しましょう。 もしトラップ内に固形物が見つからない場合、それは残念ながらさらに奥へと流れてしまった可能性が高いです。こうなると、もはや素人が手を出せる範囲を超えています。無理をせず、速やかにプロの水道修理業者に連絡してください。彼らは、管内カメラや特殊なマジックハンドのような専門道具を駆使して、我々には不可能な救出作業を行ってくれるはずです。